パン職人の働き方と給料を徹底比較|ホテルベーカリー vs 町のパン屋 vs 工場勤務のリアルと選び方【保存版】

パン職人の働き方

転職先を選ぶのは、パンづくりでいえば“粉の選定”に近い作業です。

同じ配合でも粉が違えば水の入り方も、捏ね上がりの表情もガラッと変わりますよね。

職場もまったく同じで、ホテルベーカリー・町のパン屋・工場勤務のどこを選ぶかで、働き方・身につく技術・収入の構造は大きく変わります。

私は、ベーカリーのプロデューサーとして、法人での店舗開発から職人としての海外修行、独立開業、年商2億円超え、食パン専門店とベーカリー合わせて全国30店舗規模に育ててM&A譲渡、現在はベーカリー専門の店舗売買・譲渡・M&Aと、パン職人専門の転職エージェント事業を行っています。

採用側・現場側・支援側の三つの視点から、“どれが自分に合うか”をブレずに判断する軸をお渡しします。

この記事でわかること

  • ホテル/町パン/工場、それぞれの働き方・給料の構造・身につく力の違い
  • 向き・不向きを見分けるチェック観点(シフト・役割・評価・衛生基準)
  • 【面接での質問例】(そのまま使える聞き方)と、入社後ギャップを避けるポイント
  • 筆者の実体験に基づく失敗例と成功例
  • 今日からできる転職先の選び方3ステップ

1. 三つの働き方を“先に言語化”しておく

パン工場の様子

まずはざっくりした全体像です。

以下はあくまで傾向で、地域や規模・ブランド力・役職で変動します。

  • ホテルベーカリー
    宴会・レストラン・ラウンジ・ルームサービス向けの製造。
    24H稼働や深夜~早朝仕込みが多く、衛生基準・規律・対外品質は非常に高い。
    ペイストリー部門と連携しやすく、商品幅と仕込み量の読みを学びやすい。
    待遇は手当で底上げされやすい一方、休みはシフト次第
    大手ほど評価制度が整う傾向。
  • 町のパン屋(個店・路面店・商業施設内)
    職人の裁量が大きく、商品企画・製造・売場づくりまで幅広く関われる。
    お客様の反応が直接返ってくるのが魅力。
    給与は基本給+残業の構成が多く、伸びしろは売上や標準化の貢献で生まれる。
    休みは週1.5~2日程度が一般的だが、繁忙期は変動しやすい。
  • 工場勤務(セントラル/製パン工場)
    シフト・工程が標準化され、大量生産・品質の安定がミッション。
    深夜帯手当・交替手当がつく場は収入が読みやすい。
    作業は分業だが、工程改善や安全衛生、設備保全との協働を学べる。
    昇格はラインリーダー→工程責任者→SV等のマネジメント寄りの道も。

月給の“構造の見え方”(めやす)

  • ホテル:基本給に深夜・早朝・宿直等の手当が重なるケースが多い
  • 町パン:基本給+固定残業(時間数の明記が重要)+残業実績
  • 工場:基本給+深夜・交替手当+生産奨励等の体系が多い

※割増賃金の基本は「時間外25%以上、深夜(22時〜5時)25%以上、重複時は合算(例:50%以上)」という厚労省のルールに基づきます。

参考:厚労省FAQ|時間外・休日・深夜の割増賃金

2. 10項目で比較する:働き方・給料・学び

セントラルキッチン

それぞれの職場を、転職相談で必ず確認している10項目で比較します。

自分の優先順位を横に書き込みながら読んでください。

1:シフトと体内時計

  • ホテル:深夜〜早朝の固定 or 交替が多い
  • 町パン:早朝中心、イベント時は前倒しや延長
  • 工場:交替制(日勤・準夜・深夜)で固定できる場合も

2:休日日数と繁忙期

  • ホテル:暦・宴会で繁閑差が大きい
  • 町パン:週末・連休・イベントで山ができる
  • 工場:年間計画が出やすく予測しやすい

3:給与の伸ばし方

  • ホテル:資格・等級・語学・表彰で昇給ルート
  • 町パン:売上改善・歩留まり改善・標準化が評価に直結
  • 工場:生産性KPI・安全・不良率で定量評価

4:学べる技術の幅

  • ホテル:幅広いアイテム、大量同時進行の段取り
  • 町パン:商品企画~売場づくり、地域の嗜好対応
  • 工場:品質の再現性・工程設計・衛生標準

5:衛生基準と記録

  • ホテル:HACCP運用+施設監査が厳格
  • 町パン:仕組みの整いは店ごとに差。運用の実態を要確認
  • 工場:HACCP/JFS/BRC等の基準で記録・監査が日常

6:設備差への適応

  • ホテル:ガスオーブン/デッキ/コンベクションを併用
  • 町パン:店舗規模に左右。更新サイクルも店次第
  • 工場:大型オーブン・スパイラルミキサー・急速冷却等

7:役割とチーム構成

  • ホテル:ベーカリー/ペイストリー/料理部門の連携
  • 町パン:少数精鋭で多能工。販売応援も
  • 工場:ライン単位の分業とリーダー制

8:お客様との距離

  • ホテル:直接は少ないがブランドの要求水準が高い
  • 町パン:フィードバックが即日返る
  • 工場:BtoBや大量供給が中心、クレーム予防の視点が重要

9:キャリアパス

  • ホテル:職長→副料理長→シェフブーランジェ
  • 町パン:工房長→多店舗の統括→商品開発/独立
  • 工場:ライン長→工程管理→品質保証/SV

10:将来の選択肢

  • ホテル:対外的な肩書き・表彰が次の扉を開く
  • 町パン:独立や商品開発の土台
  • 工場:改善・標準化・マネジメントの強み

3. 実在のケースから学ぶ

事例の様子

ケースA:外資系ホテルベーカリー(首都圏)

早朝3:30入りの固定。

宴会大量仕込みの日は人員を厚くし、深夜~早朝の割増が手取りを押し上げる形。

HACCPの記録と監査は厳格で、言語化と段取りの精度が評価につながった。

学び:規律×段取り×品質の三拍子で伸びる人に向く。

ケースB:郊外の町パン(路面店)

工房長に昇格した職人が、夕方の欠品率を15%→5%、廃棄率を7%→3%へ改善。

焼成回数と製造順の見直しで残業-20h/月。

評価に直結し、翌年に基本給+賞与が増額

学び:数字で語る改善がダイレクトに年収へ反映されやすい。

ケースC:セントラル(中堅チェーン)

夜勤固定。

急速冷却→包装→出荷まで動線化され、安全・品質の標準化が最重要。

ラインリーダーとして不良率を0.8%→0.3%に低減し、工程改善表彰で昇格。

学び:再現性と改善を積むとマネジメントの扉が開く。

4. 「給料の見え方」を誤解しないために

給料について
  • 所定内基本給だけで比較していないか
  • 固定残業の時間数・超過精算の方法を聞いたか
  • 深夜・休日・交替などの手当と、繁忙期の実績を確認したか
  • 賞与の基準(個人/会社/店舗指標)を把握したか
    【面接での質問例】
    「固定残業は何時間分でしょうか。超過分の精算方法、深夜・交替手当の取り扱いも合わせて教えてください。」

※割増賃金の根拠は厚労省の一次情報を必ず参照してください。

参考:厚労省FAQ|時間外・休日・深夜の割増賃金

5. 見学時に“ここだけは”見ておく

パン職人が仕事してる様子
  • 温度・衛生の記録様式(記入が形骸化していないか)
  • 設備の年式プレート・清掃状況(発酵器の表示・オーブンの扉周り)
  • 焼成回数の設計(ピークの前後でどう変えるか)
  • 指示の出し方(標準化/口頭/掲示/動画)

【面接でのお願い例】
「もし差し支えなければ、工房を短時間見学させていただき、衛生記録や設備の運用イメージを教えていただけますか。」

見学はただ“雰囲気を感じる”だけでなく、こうした細かいポイントを見る視点を持つだけで、一歩先の判断ができるようになります。

ぜひ、自分のチェックリストに加えてみてください。

6. コラム:筆者が見た「失敗例」と「成功例」

転職活動

失敗例:ホテル志望で夜型が合わず、半年でダウン

面接では問題なかったものの、深夜〜早朝固定に体が慣れず、仕込みの集中力が落ち、ミスが増加。評価が落ちて本人も苦しくなってしまった。
教訓:体内時計の適性は想像ではなく、過去の実績(夜勤の経験)で判断しよう。事前に短期間でも夜型生活に切り替えて試すのは有効。

成功例:町パンで“数字の改善”が評価に直結

別の職人は、焼成スケジュールの最適化在庫表の刷新で欠品率・廃棄率・残業を三位一体で改善。数字でビフォー/アフターを毎週ミーティングで共有し、基本給アップ+工房長手当に繋げた。
教訓:町パンは数字×標準化×教育の三点セットを見せると、評価が早い。

失敗も成功も、現場で本当に起きた実例です。

あなた自身が同じ状況に立ったらどう行動するか想像しながら読むことで、ただのエピソードが“自分の学び”に変わりますよ。

7. まとめ:今日からできる“選び方3ステップ”

ステップアップ

パン職人としての転職先は、ホテル・町パン・工場、それぞれに魅力もあれば注意点もあります。

どこが良い悪いではなく、自分に合った環境を見極めることが大切です。

そこで、今日からできるシンプルな3ステップをお伝えします。

  • 優先順位を3つ書き出す
     「給与」「夜勤の少なさ」「技術を学ぶ」「安定した勤務時間」など、自分が一番大事にしたい条件を整理してみましょう。
  • 3タイプの働き方を比較する
     ホテルベーカリー・町のパン屋・工場勤務、それぞれの「給料・勤務時間・役割・学べる技術」をリスト化して照らし合わせます。
  • 見学や面接で“確認質問”を実行する
     本記事で紹介した質問例や見学のチェックポイントを、自分用メモにして持参してください。聞きにくいことこそ、事前に準備しておくと安心です。

この3ステップを踏むだけで、転職の失敗リスクはぐっと減らせます。

あなたのキャリアに本当に合った職場を選ぶために、まずは紙とペンを手に取って“自分の優先順位”を書き出してみましょう。

藤巻たすく
藤巻たすく

この記事書いた人

藤巻たすく

ベーカリーのプロデューサーとして、法人での店舗開発から職人としての海外修行、独立開業、年商2億円超え、食パン専門店とベーカリー合わせて全国30店舗規模に育ててM&A譲渡、現在はベーカリー専門の店舗売買・譲渡・M&Aと、パン職人専門の転職エージェント事業を行っています。
私の経験が、皆さんの未来に少しでもお役に立てたら嬉しいです。

記事監修:株式会社アルチザンターブル

参考(本文中で触れた一次情報・公的データ)

※本文は公開情報と筆者の実務経験に基づき執筆しています。統計値は出典の算出方法・時点により変動します。

この記事で紹介したように、パン職人の転職には環境選びが重要です。
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